越境ECの関税とは?主要国の関税制度や注意点を解説
越境ECにおける関税とは、海外から商品を輸入する際に課される税金のことです。関税負担の仕組みや中国、アメリカなど主要国の関税制度を解説します。
越境EC事業者にとって、関税について十分に把握することは実務に直結する重要なポイントです。関税の知識が曖昧なままではトラブルやコスト増につながる可能性があるため、国ごとの制度や税負担のルールの理解は欠かせません。
この記事では、越境ECにおける関税の基本から、主要国の制度、消費税、実務上の注意点までを解説します。
越境ECの関税とは
関税とは、海外から商品を輸入する際に課される税金のことです。越境ECで商品を販売する際、輸出先の国の制度に基づき、配送料とは別に関税が発生します。
関税の主な目的は、国の財政収入を確保することと、国内産業を守ることです。安価な輸入品が市場に流入しすぎると、国内の製品が売れなくなるため、一定の税率をかけて価格差を調整しているのです。
関税の種類は、商品の価格に応じて課される「従価税」、重さや数量に応じた「従量税」、両者を組み合わせた「混合税」、特定の状況で適用される「特別関税」などがあります。
越境ECでは、販売する商品に応じて、関税が適用されるかを事前に確認しておく必要があります。
越境ECの関税負担

越境ECでは、関税を販売者と購入者のどちらが負担するかによって、それぞれの費用が大きく代わり、購入者心理にも影響します。代表的な条件であるDAPとDDPの違いを把握しておきましょう。
購入者が関税を負担するDAP
DAP(Delivered at Place)は、越境ECで広く使われる貿易条件で、売り手が指定された場所までの商品輸送を行い、輸送費用も負担します。
ただし、通関手続きや関税・消費税の支払いは買い手の責任となるため、商品到着後に追加費用が発生する可能性があります。
似た条件で以前はDDU(Duty Delivery Unpaid)がありましたが、インコタームズ2010で更新されDAPに統合されました。
DAPはDHLやFedEx、UPSなどのクーリエ(国際宅配便)を利用した発送で多く採用されており、売り手側のコストや手続き負担が抑えられるのがメリットです。一方で、購入者が通関や税金の支払いに不慣れな場合、受け取りに時間がかかったり、トラブルにつながることもあります。
必要に応じて、通関サポートや問い合わせ対応の体制を整えておくと、購入者の不安や不満が緩和でき、スムーズな取引につながります。
販売者が関税を負担するDDP
DDP(Delivered Duty Paid)は、売り手が通関手続きや関税・消費税の支払いまでを一括で担う貿易条件です。買い手は荷下ろし以外の手続きが不要となり、商品を受け取るだけで済むため、負担が軽減されます。
越境ECでは、購入者が通関に不慣れなケースも多く、DDPを採用することで安心感を提供できる点が大きなメリットです。特にアメリカでは、2025年にデミニミスルールが撤廃され、800ドル以下の貨物も課税対象となったため、DDPのニーズが高まっています。
売り手側の負担は増しますが、購買意欲を高めたい場面では有力な選択肢となり、スムーズで信頼性の高い販売手法として活用されています。
関連記事:DDU、DDP、および関税について
越境EC主要国の関税制度
関税制度は国ごとに異なり、取引条件や税率が大きく違います。ここでは主要6カ国における代表的な関税制度とその概要を解説します。
中国
中国の関税制度は複雑で、複数の税率体系が併存する「複税制」が特徴です。WTO加盟国には最恵国待遇税率が適用され、FTA(自由貿易協定)締結国には協定税率、それ以外の国には普通税率が適用されます。
さらに、アンチダンピング税や反補助金税などの特別関税も導入されており、品目や原産国によって税率が大きく異なります。
中国で越境ECを行う際は、主に「行郵税」と「越境EC総合税」のどちらかの関税が適用されます。そのうち、保税区の活用により税制優遇を受けられるのが越境EC総合税です。保税区とは、通関前の商品を一時的に保管・販売できる特定区域で、うまく利用すれば大幅に関税を抑えることができます。
アメリカ
アメリカの関税は、HTSコードに基づき「一般税率」「特別税率」「法定税率」の3区分で運用されています。
2025年8月に免税制度のデミニミス規定が廃止され、すべての貨物に関税が課されるようになりました。これにより、アメリカ向け越境ECではDDP(関税込み持込渡し)への対応が急務となっています。
Ship&coでは、主要配送会社によるDDP対応の詳細を案内しています(最新情報はこちら)。
関連記事:日本からアメリカへの関税はいくらから?関税率の調べ方も解説
台湾
台湾の関税制度は、輸入税率が「カラムⅠ」「カラムⅡ」「カラムⅢ」の3区分に分類されているのが特徴です。日本は台湾と互恵待遇の関係にあるため、カラムⅠ税率の比較的低い税率が適用されます。
ただし、特定品目には高税率や特別税率が課される場合があるため、事前にHSコードとそれを基にした台湾独自のCCCコードの確認が必須です。
韓国
韓国の関税制度は、国定関税率と国際協力関税の2つに大別されます。国定関税率には、標準的な基本税率のほか、期間限定で適用される暫定税率や、国内産業保護のために調整される弾力関税率があります。
国際協力関税は、WTOやESCAPなど発展途上国間の国際協力枠組みに基づいて設定される優遇税率で、対象国との貿易促進を目的としています。日本からの輸入には、基本税率や、WTOの加盟国に一定以上の関税を課さないWTO譲許関税率などが適用されるのが一般的です。
タイ
タイの関税制度は、一般税率に加えて、ASEAN域内の貿易に適用されるCEPT税率や、FTA、GSP(一般特恵関税制度)、GSTP(世界的貿易特恵関税制度)などの優遇税率が存在します。
これらは対象国や品目によって適用条件が異なり、日本からの輸入品の場合、優遇税率が適用される品目もあります。HSコードと協定の有無を確認して税率を把握しましょう。
インド
インドの関税制度は、1975年に制定された関税率法に基づいて構成されており、基本関税に加えて社会福祉課徴金、IGSTなどが課されます。これらはすべて輸入時に加算されるため、実質的な税負担が高くなる傾向があります。
免税枠がなく、基本的に越境ECの輸入品すべてが課税対象となるため、販売の際は価格表示や納期説明を明確にしておくことがポイントです。
品目ごとの税率はHSコードに基づいて決定されるため、販売前に正確な分類と税率を把握しておくと、通関時のトラブルや追加費用を防げます。
越境ECにおける消費税
消費税は日本国内の取引に対して課される税金で、越境ECは「輸出取引」とみなされるため、原則として消費税が免除されます。これが「輸出免税」と呼ばれる制度です。ただし、免税を受けるには、取引が輸出であることを証明する必要があり、輸出許可書などの書類を7年間保存する義務があります。
越境ECでは、こうした制度を踏まえ、課税対象外であることを前提に価格設定や会計処理を行うことが求められます。輸出免税を適切に活用すれば、価格競争力の向上にもつながります。
消費税還付
越境ECでは、一定の条件を満たせば、仕入れや発送時に支払った消費税の還付を受けられます。還付を受けるには、課税事業者であり、年間課税売上高が1,000万円を超えていることが前提となります。
申請には、確定申告書、課税標準額等の内訳書、消費税還付申告に関する明細書などの書類が必要です。申請期限は、法人の場合は課税期間終了後2カ月以内、個人事業主の場合は翌年3月末までです。
なお、簡易課税方式を選択している場合は還付が受けられないため、原則課税方式を選ぶ必要があります。
参考:国税庁 No.6551 輸出取引の免税
国税庁 No.6615 確定申告書等に添付することとなる書類
e-Gov 法令検索 消費税法
越境ECの関税における6つの注意点

国際販売を行う際には、各国の関税制度や税率の違いを正しく理解しておく必要があります。越境ECでよくあるミスを防ぐために押さえておきたい、6つのポイントを実務的な視点から解説します。
1. それぞれの国の制度を理解する
販売先の国によって関税制度は大きく異なるため、事前に制度を把握しておくことが欠かせません。例えば、WTO加盟国には「最恵国待遇税率」、FTA締結国には「協定税率」が適用されるなど、税率の決まり方や適用条件は国ごとに異なります。
その結果、同じTシャツでも、ある国では5%の関税が課され、別の国では無税、さらに別の国では20%以上の高関税がかかるといったケースもあります。こうした制度の違いが、実際の税負担に大きく影響するのです。
また、関税率を調べる際には、各国・地域で使われるコード体系にも注意が必要です。アメリカではHTSコード、EUではTARICコードが使われており、同じ商品でも分類や税率が異なる場合があるので注意しましょう。
2. 最新情報を確認する
関税制度は各国の政策や国際情勢によって急に変更されることがあり、常に最新の情報を把握する必要があります。
例えば、アメリカでは長年続いた「デミニミス制度」が2025年8月に撤廃され、個人輸入の少額商品でも課税されるようになりました。こうした制度変更は突然実施されることも多く、予期せぬコスト増や配送遅延の原因になりかねません。
関税率や免税枠、FTAの適用条件は頻繁に見直されるため、古い情報のまま運用すると通関トラブルや価格設定の誤りにつながる恐れがあります。
これらのリスクを防ぐには、各国の税関・貿易機関、ジェトロ(日本貿易振興機構)などが公表する最新データを定期的に確認し、制度変更に柔軟に対応することが必要不可欠です。
3. 関税とは別の税金がかかる場合がある
海外へ輸出する際は、関税以外の税金がかかる場合があります。多くの国では、関税に加えてVAT(付加価値税)や物品税などの間接税が課されるため、実際の支払総額が商品価格と比べて大幅に上がることもあります。
特にASEAN各国や中東諸国では、関税率は低くてもVATが課されたり、さらに特定品目には追加課税がされたりする場合もあります。こうした制度を理解せずに販売すると、「予想より高い」と感じた購入者の受け取り拒否や、クレームにつながりかねません。
越境ECでは、関税だけでなく、現地で課されるすべての税金までを含めた「着地コスト」を意識した価格設定が求められます。
4. サイト上で関税情報を明記する
海外向けに商品を販売する際は、関税や税金に関する情報をサイト上で明確に伝えることが大切です。購入者が関税が発生することを知らずに購入した場合、トラブルや返品につながる恐れがあります。
商品ページやFAQに「関税・税金は購入者負担です」、「関税・送料込みの価格です」などの表記があれば、トラブル防止に役立ちます。
高額商品を扱う場合や、関税率が高い国を販売対象とする場合は、購入者に関税の目安や通関の流れを事前に説明しておくと親切です。購入者の立場に立った情報提供が、越境ECにおける信頼構築の第一歩となります。
5. BtoCとBtoBでルールが異なる場合がある
越境ECでは、BtoC(個人向け)とBtoB(法人向け)で関税や通関のルールが異なることがあります。BtoC取引は個人輸入扱いとなるため、簡易通関や免税枠などの優遇措置が設けられている国もあり、比較的スムーズに配送できます。
一方、BtoB取引では、輸入者である現地法人が関税の納付や通関手続きを行うのが一般的です。ただし、契約条件や貿易条件次第では輸出者が対応する場合もあります。D2B(Direct to Business)などの販売形態では、BtoBとして扱われることもあるため、販売形態に応じた税務・通関対応を事前に整えておきましょう。
6. 書類の記載ミスをしないようにする
通関時に提出する書類の記載には慎重を期しましょう。特に「コマーシャルインボイス(商業送り状)」は、税関が関税や税金を判断する際の根拠となる重要な書類です。
記載ミスや情報の不足があると、通関遅延や追加課税、場合によっては商品が返送されるリスクもあります。商品名や数量、価格、HSコード、原産地などを正確に記載し、購入者情報や配送先も間違いのないように確認しましょう。
特に初めての国に出荷する場合は、現地の通関要件を事前に調べ、必要な書類や記載項目をチェックリスト化しておくと安心です。過去の事例や通関業者のアドバイスを参考に、慎重に書類を作成しましょう。
まとめ
越境ECで発生する関税は、海外の購入者が商品を受け取る際に、その国の税関で課される税金を指します。国によって関税率や免税枠などが異なり、価格設定や配送方法に大きく影響します。これらを正しく理解し、販売サイト上で明示するのが、購入者とのトラブルを防止する上で効果的です。
また、複雑な制度や通関手続きに対応するには、実務面での効率化も欠かせません。そこで役立つのが、越境EC支援ツールです。
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